2013年10月26日土曜日

梶山管区長巻頭言:海峡からの風22号


海峡からの風に応えて

イエズス会日本管区長   
 梶山義夫   

 海峡は、地と地、人と人を隔てる。海峡を隔てて、気候や風土が異なり、言葉や生活習慣が異なり、考え方や生き方が異なる。しかし、海峡は大海原ではない。大海原は元来、人と人との交わりを絶つ。海の彼方に自らの世界と異なる異世界があると想像するが、それはまったく異次元の世界である。海峡は確かに両岸を分離するが、同時に両岸を結びつける。両岸の世界が相異なっているからこそ、互いに魅力を感じて引きつけ合い、互いを必要とし、交わることを求める。自らの持つもののなかで相手にないものを寛大に与えようとし、相手が持つもので自らにかけているものを謙虚に受けようとする。しかしこの交わりは、海峡故に容易ではない。自らをよく整え、自らの狭い殻を打ち破り、空の手で向こう岸に渡らなければならない。自らをよく整え、自らの狭い殻を打ち破り、広い視野を持った上で出かけなければ、その渡航は暴力を用いる侵略となり、破滅をもたらす。海峡は、過去の喜びに満ちた分かち合い、そして暴力と侵略の証人である。
下関労働教育センターは関門海峡を臨み、下関は対馬海峡を臨む。関門海峡では、平家は天皇と自らの栄華の記憶を携えて滅び去り、フランシスコ・ザビエルは神の国の福音を心に抱いて渡った。対馬海峡では、古来より僧侶や商人、文化人たちが盛んに行き来して実り豊かな交わりが形成されてきたが、他方十三世紀、十六世紀、そして日清戦争のころから朝鮮戦争にかけて軍隊が渡って破壊をもたらした。このセンターは、まずこの歴史の証人であること、そして関門海峡や対馬海峡の両岸を結ぶ交わりと平和の形成の場、チャンネルであることが求められる。
センターは、労働教育の名を受けている。労働とは、人がしんどい思いをしながらも、大自然に対して働きかけたり、人との関係を築いたり、社会に働きかけながら仕事をして、日々の糧を得、人間としての尊厳を形成することであろう。それは、同時に神と人々への奉仕と愛でもある。今日の労働状況は、特に若い人々にとって人間としての奉仕と成長が困難な状況にある。
歴史の証人であること、平和を形成していくこと、人間の尊厳が尊重される生活環境を整えることといった使命を私たちが果たしていくためには、自らをよく整え、自らの狭い殻を打ち破り、グローバルな観点を形成する努力を常に払わなければならない。そのためには、常に新鮮な風を受ける必要がある。この風、いのちの息吹がいつ、どこに向かって吹いていくのか敏感に看取し、その風に向かって心の扉を全開にして、自らの精神に希望の灯火をともし続けていくならば、平和の福音を携えて向こう岸に渡る力を自らのうちに育むことができるであろう。
センターには取り組むべき課題や建物の補強などの必要があることは否定できないものの、今後も日本のみならず、アジアにおいてイエズス会が目指す正義の促進のために貢献すること、多種多様なネットワークの拠点地として奉仕すること、また諸国との交流といった新たな可能性に開かれたものであることが期待されるとの判断から、センターを2028年度末まで、現在地において、山口・島根地区の枠組みを越えた管区の施設として存続させることにした。センターに派遣される会員のみならず、センターに関わる数多くの人々が、豊かな恵みと力強い導きを受けて、これらの目的のためにセンターにおいて貢献しくださることを心から望んで止まない。